美容院のいろいろ

私は美容院が苦手だ。

美容院が苦手というより、よく知らない人とどうでもいい話をするということが苦手なだけなのかもしれない。
数年前までは、小学生の時からずっと一緒の美容院に通っていた。
担当してもらう人もだいたい一緒。(転勤などで数回代わったりはしたけれど)
なので美容院はわたしにとって特に緊張せず気楽にふらっと行けてリラックスできる場所だった。
それが数年前、いつも担当してもらっていた人が寿退社されたので、違う人に担当してもらうことになった。
新しく担当してもらった人が駄目だったとか、不満だったとかそういうわけではないけれど、
なんとなく面倒になって行かなくなった。
しかし髪は伸びてくるし、染めた髪の根元は黒くなってくるので美容院には行かなければいけない。

でも行きたくない。

そんなに行きたくないならそれらをぜんぶ自分ですればいいのではないか。とも一瞬思ったけれど、
そこまでの器用さと気力は生憎持ち合わせていない。
ならば昔から行ってるんだからいつものところへ行けばいい。といつもは思うのだけど、
ある日、「そこに行くのをやめよう。別の適当なところを転々とすればいいんだ。で、気に入ったらそこに通えばいい。」と決めた途端、なんとなく気が楽になった。
その日からわたしは晴れて美容院ジプシーデビューした。


インターネットで家の近所や職場の近くの美容院を検索し、なんとなく目に留まったところに電話して予約をした。
それにしても美容院ってたくさんあるんだなあ。というのがまずもっての感想。
これから放浪する身としては大変心強い。
何せ一度違う美容院に行くと、また元の美容院にもう一度行くということがしづらいからだ。
別に気にすることでもないかもしれないけれど、気にしいの私としては一度他の美容院に行ったくせに、また元の美容院に行くというのは裏切ったような気がして行けない。

そんなこんなで初めて行く美容院は、やはりよく知らない人と会話するのがしんどい、という反面、
色々面白い発見もあった。
まず、初めて行くと名前やら住所やら電話番号をカルテのようなものに書かなくてはならない。
「書けるとこまででいいです。」
といわれ、「はて?」と思ったけれど、よく見たら名前や電話番号の他に、職業や誕生日やメールアドレス等、そこまで教える義理はない。といった情報を書き込む欄があった。
というかそもそもこのカルテに書き込む情報なんて免許証や保険証と照らし合わせるわけでもないので、いわば何書こうとフリーダムなのだ。
私は名前が少しだけ珍しいことからか、漢字の読み違いでよくサチコやハナコに間違われてきた。
昔から通っていた美容院ですらメルマガはハナコ様と書かれていた。
それならばここにだって別にハナコであろうがサチコであろうが書いたっていいじゃないか。
職業だって銀行員だろうがマジシャンであろうが木こりであろうがなんだっていいじゃないか。
ここでは私は何者にでもなりうるのだ。
漫画家の久米田先生だって、美容院では久保田という偽名を使っているという話なども思い出したりしながら、これは…と思ったけれど、結局は素直にすべて書き込んだ。
そして髪の毛を切ってもらうわけなのだけれど、ここでもそれとなく「この人はどういう人間なのか」ということを少しずつ聞かれる。
「どこから来たのか」「職場が近いのか」「きょうはお休みなのか」「いつも平日が休みなのか」「実家住まいなのか」「結婚しているのか」などなど。
別に黙って雑誌読んでればそこまで聞かれることもないのかもしれないけれど、沈黙が気まずいので聞かれたことには答えてしまう。
答えてしまうとそこから派生してどんどんまた質問されてしまう。
気つかいの人見知りとは大変損な性格だとつくづく思う。
(美容院の中でくらい私は人見知りです!と言って相手のことは考えず、だんまりできる潔さが欲しい)

脱線したけれど、あと美容院の良いところを挙げるとすれば、普段読まないような雑誌が色々読めるところだ。
美容院ではじめに持ってこられる雑誌は、だいたい年齢とか服装とか雰囲気でチョイスされると思うのだけれども、たまに前の人が読んでいたまま置かれていたりする。
それが普段読まない感じの雑誌だと大変面白い。
「人生を変えるヘアに出会う!永久保存版!○○美女はここで差をつけてる!」みたいなテンション高めのキャッチコピー読むのも楽しいし、皇族のあれこれやらあの事件の驚愕の裏側!みたいな週刊誌もじっくりと読むのも良い。

帰る頃には雑多な情報でお腹いっぱいになっている。

結局、今の所2カ所しか開拓していないのだけれど、どちらも良い所も悪い所もあってもう1度行くかどうかはわからない。
行かないとしたら、また数ヶ月後には新たな美容院を探さなければいけないと思うと面倒なのだけれど、それはそれでまた新たな発見があるかもしれないので良しとしよう。

帰り道は、開放感からほっとして空気公団の「やさしい朝」を鼻ずさみながら帰った。

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