母のお弁当

数日前、唐突に涼しい日がやってきて「秋だぞ!」という気分になり浮かれていたけど、
それは1日だけだった。去年もそんな日があったなあ。

夏は、 
「海だ!山だ!川だ!花火だ!BBQだ!うえーい!」
みたいなテンションについていけず、ついていけないどころか、
それらのことをしなければ若者じゃない、みたいな強迫観念に勝手にしんどくなり、
外に出ればびっくりするほど青白い自分の手足が目に入ってげんなりする、みたいなことをここ数年繰り返している。
(20代に入るまではうえーい!なテンションについていけていたはず…)

ここ最近はその強迫観念をかなぐり捨て、堂々と休日家の中で過ごせるようになったので気分的に少し楽にはなったのだけど。
窓外に広がる夏空を一人でぼんやりと、他人事のように見ていると唐突に母のお弁当のことを思い出した。


数年前、実家から職場へ通っていた頃のこと。
わたしは社会人2年目で毎日あくせくと働いていた。
そんなわたしに母は毎日お弁当を作ってくれていたのだけど、
夏バテ気味で食欲のないわたしは、お弁当を残してしまう日が多かった。

そんなある日、母は急にお弁当に凝りだし、キャラ弁とまではいかなくても、
異様にカラフルなお弁当を作るようになった。
ご飯がそぼろ・炒り卵・桜でんぷで色づけ、にんじんは花形、卵焼きはハート型、ウインナーはタコ、時にはご飯の上に海苔で何やら模様が描かれている(蓋の裏に貼り付いて判読不能)等、やたらとキラキラしていたのだった。
母はめんどくさがりで、見た目より味・手軽さの方を重視する人だったし、
自身もバリバリ働いていて、朝ものすごく忙しかったはずなのでわたしはギョッとした。

母がキラキラ弁当を作り出して数日後、
「お母さん、そんな無理しなくていいよ。ふつうのお弁当でもちゃんと食べるようにするし。」
と、申し訳ないと思いつつもそう言った。
母は聞いているのか聞いていないのか、
「えー?あんた靴下裏返しに脱ぐのやめなさいよ。」
みたいな全然関係ないことを指摘しだしたのでそれ以上何も言わなかった。

結局、夏の間はずっとキラキラ弁当が続いた。
母は色々な家事をめんどくさいとぼやきながらも涼しい顔でキラキラ弁当を作り、
わたしは残すに残せないお弁当を食べながら、職場の人に説教されたりなどしながら日々を過ごしたのだった。
(「まーすごいわねお母さん!あなた社会人にもなってお母さんにそんなお弁当作ってもらってたら駄目よ」的な流れ)

当時は、過保護だよなあ、とか、大人になってそんなお弁当、みたいな照れ隠し&他者の目を気にしてそういう感想が先にでてしまったけれど、
今考えると素直に有り難かったよなあと思う。

夏のせいなのか、夕方のせいなのか、こんな風に過去の何気ない出来事を思い出すことが増え、
センチメンタル婆みたいになりやすくて困る。

それにしても食べ物の思い出は何故か当時より1.3割増くらいで美化&センチメンタルっぽくなる気がするのはなんでだろうな。